鍵っ子もいろいろと思うことがあるんです
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ここからの記事は前回の小説「Jump↑Girl.」についての内容を含みます。
読みえてくださった方は追記からご覧ください。


Jump↑Girl.を読んで頂き、ありがとうございました。

今回自分は一つの物語を「完結」させられたことにほっとしています。
結局前回のブログメンバーの小説も途中で終わってしまいましたし・・・あの後世界観は某ゲームの内容だったはずなのにストーリーはまったくハートフルでもバトルアクションでもなく、人間模様を描くちょっとどろっとしたお話になる予定でした。
全部書き終わる頃には「えっ...メイプルストー●ー関係ないじゃん?」って言われる物語だったと思います。
最期までお話の筋は出来上がっていたんですけどねぇ...書き上げられなくてちょっと残念です(;^ω^)
しかし、今回は短編でありながらも、最後まで書き切ることが出来ました。
これは自分にとって一つだけ成長できたかと思います。

さて、今回の「Jump↑Girl.」には大きなテーマを描きました。
それは皆さんお気づきの通り、「夢」でした。
主人公大山恋太朗は事故の後、父を軽蔑し自らの憧れだったパイロット像を見失い、夢を失います。
しかしその夢をヒロイン鴛未夏との短い時間を過ごす事で再びその夢を追い求め始める、といった感じです。
その夢を取り戻せるよう未夏は自らの「生前の」性格とは違った「凛とした仮面の」姿を彼に精一杯見せて。

いきなり飛行機に乗るの?って少し躊躇われた方もいるかもしれませんが、彼が夢を取り戻すには「父の罪の誤解」を再認識する必要がありました。そしてそれは、自分で気づくことが必要だったのです。それが「夢」だからです。
夢とは相手からの憧れを受けることで抱く感情だと考えています。しかし憧れさせてしまうのは他人ですが、憧れるのは他の誰でもなく自分自身だからです。
未夏が「生前」と違った性格をしていたのは、そういった「夢」への憧れを恋太朗に抱かせる意図があったからです。
憧れが夢を呼び、その夢を叶えるためにこれからも進んでいく。
それは若い青春を駆ける高校生にはぴったりのテーマだと感じました。

また、この物語にはもう一つテーマを持たせました・・・それは「家族」です。
この物語は基本大山家の人間しか登場しません。
最初は大山友人Aくらいの存在はプロットにあったのですが消しました。
もっと大山家の過去については深く掘り下げて描きたかったです・・・。
ああいった暗い過去は本当は少しずつ明るみになっていく方が物語としては面白いとは思うんですが、そんなにたくさん分岐要素もなかったので一気に書き切りました。
母親の死、父親がノイローゼ・・・というのも当初から考えてしました。
家族の中で数年間主人公が「孤独」であったことを強調するためです。妹は最初死んではいない設定を頭にはありました。
死人が歩き出すというのも少し不思議すぎる気がしてので。
そこは物語を「夢」にしてしまうことで解決しました。所謂「夢落ち」です。
夢である表現は主人公が教室に漫画を取りに行っても何もハプニングがなかったことに伏線を置きました。
アニメなんかでこの話をやると一気に伏線に気づかれるのですが、文章だと分かりづらいですよね?流して読んでちゃうとそのまま伏線を回収できなかった方もいるかもしれません・・・。

未夏が一体誰だったのか、それは想像にお任せします。
「未夏」という本当に一個人が存在したのかもしれないし、「誰か」が恋太朗に夢を伝えるために現れた仮の姿かもしれません。ただ、一つ思い出してください、この物語のテーマは「家族」です。
自分の中では未夏は家族の思いの結晶のように描きました。死んでいった、あるいは夢を失ってしまった家族が、思いを繋げて作り上げた化身のような感じです。猛々しかったり、凛としていたり、小さく見えたり、彼女の姿には彩があったかと思います。

彼が目指したのは、あの日捨てたはずの大空。
彼女が差し出したのは、ちょっとしたきっかけ。

飛べるなんて思ってなかった、黒ずんだ俺の羽。
絶対飛べるって信じてた、お空の上の私。

二人から始まった、空を飛ぶためのメルヘン。

飛びたい、今すぐに、と言ってくれた。
飛べるよ、何処までも、と言ってくれた。

そんなおっきくなったアイツを、何処までも飛ばしてやりたかった。
ちょっとだけ成長したアイツを、何処までも飛ばしてやりたかった。

俺はたった一人、もらった翼を抱き締めた。
私はたった一人、彼が羽ばたく姿を見守った。



毎度のことながら、自分が作った小説には最初と最後に詩を載せてます。
ただ書きたかったってのも、もちろんあるんですが、最初と最後、プロローグとエピローグに自分の伝えたかったことを再認識して欲しいと思ったからです。ちょっとだけ工夫して、詩を増やしました。これからのこの形態は変えないでいようかと思います。
・・・ここが俺の売りってことで。

物語が某ゲームの内容とかぶってしまっていました件は大変申し訳ありません。
あんな感じで創れたらいいなとは思っていましたが、シチュエーションの被りは本当に無意識でした。
次回の課題にしていきたいです。しかし、物語の設定はテーマを伝えるために必要な「場面」だったと俺は考えています。今後とも気をつけていきたいです・・・。

今自分は短編をもう一つ創って、同時に進行中のゲーム製作にもまた移っていきたいと思います。
今回と次回の短編はゲームのための練習ということで、こんな感じであとがきも書いてます。
また感想お待ちしてます。どうぞよろしくお願いします。
自分の今後の指針とテーマを考えるため、更新は不定期ですがご了承を(; ・`д・´)


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【2011/01/30 17:58】 | 小説
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彼が目指したのは、あの日捨てたはずの大空。

飛べるなんて思ってなかった、

二人から始まった、空を飛ぶためのメルヘン。

飛びたい、今すぐに、と言ってくれた。

そんなおっきくなったアイツを、何処までも飛ばしてやりたかった。

俺はたった一人、もらった翼を抱き締めた。



「ねぇあなた、空を飛んでみたくはない?」
俺が、彼女に突拍子も無いそんなことを聞かれたのは、高校2年の、夏。
まだまだ夏、という感じはしない、涼風の吹いていた朝のことだった。
俺は学校に遅刻しても悠々とした気持ちで校門を通り過ぎようとすると、玄関に仁王立ちで経っている女子生徒が一人。
唐突にそんなことを尋ねられてもなお、俺は吹いている涼風のごとく答える。
「なぜ?」
「そんなの、気持ちいいからに決まってるじゃない」
即答だった。
「お前は、空を飛んだことがあるのか?」
俺も言い返してみる。
「いいえ無いわ」
また即答。
「じゃあなんで、気持ちいいって分かるんだよ」
しばらく少女は間をおいて答える。
「そうね、ごめんなさい訂正するわ気持ちよさそうに決まってるじゃない」
訂正した。ぶっきら棒に。
「別に、俺は飛びたいとは思わないな」
「ふうん、私は飛んでみたいわ」
「なぜ?」
「そんなの、気持ちいいからに決まってるじゃない」
「・・・」
俺は目を閉じた。
俺の視界には何も映ってはおらず、俺の全身の皮膚には夏というにはまだ早い日差しと調和した優しい風が突き当たっている。
それをしばらく肌に感じ、目を開けた。
空を飛ぶのは、きっと最高に気持ちがいいだろう。
そう思うのは俺が飛行機に初めて乗ったとき、あの浮遊感と世界を見渡す視界の広さに優越感を感じたからだ。
かつて父がパイロットだった俺は、空を飛ぶエクスタシーを、そんな風に捉える。
でも、それは所詮「初めて」だったからに過ぎない。
二度三度と空を実感したら、すぐに新鮮味は薄れやがて退屈へと変化する。
俺はそんな一度きりのエクスタシーを感じるよりも、こうして楽しくないを繰り返している方が性にあっている気がする。
「どう?飛んでみたくなった?」
「いいやまったく」
「あなたには素質があると思う」
「何の?」
「空を飛ぶための、よ」
「どうしてそう思う?」
「お兄ちゃんに似てるからよ」
「は?」
「似てるわよ、あなた」
そう言って帆のように満面の笑みを浮かべる。
少しだけ計略ばった引きつった笑顔で。
たとえば、こんな順風満帆な少女と、ちょっとした空の世界の物語。

「空を飛ぶには何が必要?」
彼女は昼休みになると同時に俺の教室へとずんずん入ってきていきなり尋ねてきた。
周囲から俺たちは異質な目で見られている・・・・くそ。
「やる気」
「それだけ?」
「根気」
「一緒じゃない」
「飛行機・・・とか」
「機械を使ってじゃ限界があるわ、私たちが目指すのはもっと上よ!」
「どれくらい?」
「天国に届くくらいに・・・そう、高く、高ぁーく!」
そういって彼女は両手を背伸びして出来るだけ高く上げた。
目標だけは、どうやら彼女の中で具体的に決まっているらしい。
「科学の力で飛ぶには限界があるの、飛行機だって偶然の産物に過ぎないわ」
「まぁそうだわな」
飛行機というのはそもそもライト兄弟という学者二人が研究過程で偶然に発明してしまったものである。
そんな偶然に出来た代物を、俺たちは平気で移動手段として使っている。
この状況下をお空の上から神様が見ていたとしたら、きっと呆れている事だろう。
なんて揺れた世界なんだここは、ってね。
「だから、私は科学には頼らないってか頼れない」
「なぜ?」
「頼ったところで私が目指す高さには辿り着けないからよ」
彼女は科学の力を借りずに空を飛びたいという。
「何か方法でもあるのか?」
「それを一緒に考えるのよ何考えてんの今」
お前が何を考えてるのかわかんねぇよ。
「場所を変えましょ」
そう言って彼女は翻って、教室から出て行ってしまった。
俺もしぶしぶその後を追うことにする。
教室の他生徒の痛いほど刺さる視線と共に。

「それで?何か思いついた?」
「え?何が?」
「何がって、今ここに至るまでに科学さんの力を拝借しないで空を飛ぶ方法をよ」
今俺たちはここ、学校の屋上へと来ている。
教室の痛い視線を感じでから、このコンクリートが足に馴染むまでの時間、ものの3分。
「はぁ?3分で思いついたら歩きながらでも言ってさっさと教室戻ってるっつぅの...」
「それもそうねじゃあ考えましょ」
俺たち二人はしばらく黙って考えた。
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
キーンコーンカーンコーン
次の授業の開始を知らせるチャイムが鳴る。
俺はふと考えるのを止めて少女のほうを見る。
その表情は、真剣そのもので、何かの聖域をつくりだしているような小さな神聖があった。
俺は少し話しかけるのを戸惑ってしまったが、恐る恐る声をかけてみる。
「な、なぁ...授業、始まるぞ?」
「だいじょうぶよ私、時間は有意義に過ごしたいし」
「いやいや授業を受ける以上に学生のご身分のお前が有意義に時間を過ごせるとこなんてないぞたぶん」
「何言ってるの」
そう言って彼女は立ち上がった。
先程の聖域を持った聖女のような美しさのかけらもなく、その姿は猛々しく、弱者を威嚇する王者のようだった。
その弱者が俺なわけなんだが。
「今、私は空を飛びたいの」
「はい」
「だから、空を飛ぶ方法を考えてるのよ、分かる?」
「分かる」
「・・・・・・」
しばしの沈黙。
ドスッ
そしてこっそり座る音を出さないようにして座った。
またしばらく黙りこくった。

「あっ!」
俺はその時、ふと閃いた。
「どうしたの」
「ちょっちょっと待っててくれ.....!!」
俺はすぐに屋上を飛び出して自分の教室へ向かった。
そして自分の鞄から一冊の本を持って、再び屋上へと走る。
「はぁ・・・っはぁ・・・ほら、これ」
俺は未夏に一冊の本を手渡す。
「これはマンガ?」
「いいから読んでみろよ」
彼女は素早くそれらのページを次々とめくった。
そしてすべてをめくり終えて、俺は言った。
「なっ?今空を飛んだだろ?」
「・・・・・・ふぅん」
彼女は意味深な関心を示す。
「お前は今、自分の妄想で空を飛んだ、違うか?」
俺が渡したのは、主人公が空を飛んで敵と戦う王道のバトルヒーローマンガ。
それを読むと、自分がまるで空を飛んだかのような錯覚へと陥る。
それは主人公と自分を重ね合わせて、自らの妄想の中で自分を浮遊させることが出来るからだ。
これは確かに「自分が空を飛んだこと」にはならないだろうか?
「・・・そうね、確かに飛んだわ」
「だろっ?だろっ?」
しかし、彼女は小さな溜息を吐くと、言った。
「確かに私はこの瞬間空を飛ぶことが出来たわ、でもこれを読み終えたらどうやって飛ぶの?」
それは無理だ。
「飛行機より、っていう私への具体的な考慮はあったけど、私が体感したわけではないわよね?」
そりゃそうだ。所詮、頭の中からは出てこない妄想。
「面白い論理だけど、これじゃ駄目なの」
「そうか・・・」
そんなことは分かっていた。
こんな妄想紛いの屁理屈じゃ駄目だって。
「人は、二通りの方法で空を飛ぶことに成功したの」
「二通り?」
「そう、一つはあなたが実演してくれた通り、妄想で空を飛ぶことが出来たわ。これはとても幻想的で原始的」
「原始的って....」
「もう一つは、科学の力で空を飛ぶことが出来た。飛行機はその一つの実例よ。こっちは体感的で現実的」
「偶然だけどな」
「私たちはその二つの方法を通過し、三つ目の空を飛ぶための方法を探しているの、分かった?」
「把握した」
それから彼女はまたしばらく考え始めた。
その表情は照れで赤らんでいることも、授業に行かないことへの背徳も感じられない、無。
俺は聖女の祈りの時間のようなこの瞬間を、どこか気持ち悪く感じていた。
それはきっと、彼女が真剣なのも傍目に俺はどこかしら真剣味が足りていないからだろう。
心のどこかで、飛行機で飛べる限界を超えることなんて出来ないと思っている。
でも、それを彼女はやり遂げようとしているんだ。
なんだか、くだらない(俺にとっては)ことに一生懸命になってる子供みたいだ。
そんな彼女を俺は少しだけ穏やかな笑顔で眺めた。

ダンッ
彼女は突然立ち上がった。
「!?」
俺は油断していたから、彼女の起立に驚いて少しだけ後ろにおののいてしまった。
すると彼女は高らかに宣言した。
「飛行機に、乗りに出かけましょう」
「・・・は?」
「早く準備して」
「ちょっちょ・・・!!待てよ!学校はどーすんだよ!?」
「学校?何よそれ」
「それに俺!そんな飛行機乗れるくらいの金なんてねぇよ!」
「じゃあ私が出すわ」
「・・・」
俺は正直絶句した。
授業サボったと思ったら次は飛行機に乗りに行くだと?
飛行機に乗って何するつもりだ?
科学の力で飛んでも意味ないんじゃなかったっけ?
にしてもいきなり飛行機って....

「ぷっ....」
「??」
俺は気がつくと噴き出していた。
「あっはははははははは!!」
「・・・」
噴き出すだけだったはずが、ついに大声で笑い始め、しばらくそれは止まらなかった。
その間、彼女はずっと俺のほうを見つめていた。
どうして笑い出すのってきょとんとした顔で。
それでも、俺は笑うのをこらえる事が出来なかった。
突拍子もない彼女が、何だか急にいとおしく思えた。
離しちゃ行けないような気がした。
なんだか、コイツに着いて行きたくなったんだ。
俺はこの瞬間悟った......あぁ、コイツは本気なんだって。

どれくらい経っただろうか、それこそ俺には本当に長いこと笑っていた気がする。
こんなに人前で盛大に笑ったのは久しぶりだった。
「わ、わかった・・・今、行くから・・・くっくっく...」
笑いが収まって、俺はまだそれでも半分笑いながら彼女に伝えた。
その時彼女は、本当に少しだけ微笑んで、屋上の出口の方へと向かった。
俺はその後姿を、見えなくなるその瞬間まで眺めていた。
眺めていたっていうよりも・・・見つめてた?俺。

教室はまだ授業をしていて戻れないので、俺はこっそりと廊下を徘徊して最短経路で生徒玄関へと向かった。
そこには既に、凛とした姿をした彼女がいた。
彼女・・・そういえば、名前聞いてなかった。
「待たせたな・・・ってかお前、名前なんて言うんだ?」
「私?鴛未夏(おしどり みなつ)よ」
未夏、名前に打ち消しの意味を含む字があるのか・・・でも、親からもらった名前なんだから、これを一生背負っていかなくちゃいけないんだよなぁ...
「あなたは何て言うの?」
「俺か・・・俺はなぁ・・・生徒Aとでも記憶しておいてくれ」
「嫌よ、今日からあなたもう私の中では生徒AでもBでもないわ、立派な一個人だもの」
やっぱ言わなきゃいけないのか・・・はぁ。
「大山恋太朗」
「え?何て?」
「だーかーらぁ! お お や まぁ!! れ ん た ろ うぅ!!」
言った・・・俺は言ってやったぞ?
「ふーん、どんな漢字書くの?」
「おっきな山に恋する太朗君」
昔から自分の漢字を伝える時にはこう言う。
太朗君は一体おっきな山のどこに惚れたのかは分からんが・・・。
正直、俺は自分の名前に「恋」とかいう字が入ってるのが気に入らない。
まだまともな恋すらしたことがないというのに。
「分かった覚えたわ、じゃあ行きましょ、大山君」
「えっ?」
「えっ?じゃないわよ飛行機に乗るんでしょ飛行機に」
「あのさぁー聞きたいんだけど・・・何で飛行機に乗るんだ?科学の力で飛んでも意味ないんだろ?」
「別に?ただの気分転換よ」
「は?」
「だって、屋上なんかで考えたって思いつかないでしょ?だから少しでも上に行けるんだったらそこで考えたほうが懸命じゃない」
それ・・・懸命か?
「ってことで早く行きましょ時間がないわ」
俺が少しだけ引きとめようとするのも無視して先を急ぐ未夏。
俺はその後ろを黙って着いていく事にする。
・・・・・・・お金、出してくれるって言ってたし。

俺たちの街には空港がある。
それは都市部のものほど大きなものではないが、飛行機の行き来は絶えず行われている。
こんなへんぴな街に空港が出来るもんだから、町おこしの賛成派と騒音苦情を絶えずデモし続ける反対派の派閥覇権はまだ活気の余韻を残す。
俺は、どっちかっていうと反対、だってうるさいもんな、あれ結構。
街にあると言っても、俺たちの通っている学校からは結構な距離がある。
俺たちは依然歩き続けたまま、たぶん10分ほど経った。
「なぁ・・・歩くの早くねぇ?」
「そんなことないと思う」
俺は少し走らないとだんだん距離が離れていってしまう。
未夏はそれでも平然と進み続けているから、いつか見えなくなっちゃうんじゃないかって少しだけ不安だった。
俺も空港の場所は分かるから、別れてしまっても後で合流は出来るのだが、この場でいなくなったらもう会えない気がして。
俺は少しでも彼女の歩幅を狭めるために質問を重ねた。
「好きな食べ物はぁー?」
「お空」
「好きな場所はぁー?」
「お空」
「好きな人はぁー?」
「お兄ちゃん」
「お空飛んでどうすんの?」
「・・・」
彼女は俺の三つ目の問いには答えない。
それがどういう意図を持つのか、俺には分かる。
「お空飛ぶことに、何か理由があるの?」
「気持ちよさそうだからよ」

嘘だ。

「お空飛んでも気持ちよくなかったらどうするの?」
「気持ちいいに決まってるわ、うんそうに決まってるの」

嘘だ。

「ホントにそれだけ?」
「そうよ」

嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。

「嘘だ」
「  」
彼女は答えない、何も。
いや、それすらも俺の嘘・・・答えられない、彼女には。
嘘をつく人間には、嘘が分かる。
「なんで、空が飛びたいの?未夏・・・」
「名前で呼ばないで」
ありゃりゃ、名前で呼んじゃ駄目だってさ。
「なんで、空が飛びたいの?鴛さん」
「気持ちがいいから」
彼女の嘘は、固くて難くて、堅い。
「他に理由があるんでしょ?」
「ないわ」
「俺にはわかるよ」
「わからない」
「わかるさ」
「・・・」
「まぁ、教えたくなったら、いつでも言ってよ」
これは別に、警告とかいう類の脅しではない。
ただ、俺が本当に純粋に、知りたくなっただけだった。
こんなにも夢に向かって懸命に走る少女の、「走る理由」が。
「気が向いたら、教えてあげる」
「あぁ」
「話したら、抑えられないから」
「え?」
彼女はそれから黙って歩き出した。
もうこれ以上聞いてくるなと、背中が俺にひしひしと伝えてくる。
だから俺もこれ以上は聞かないでおく。
俺は逆に翻るフリをして彼女に着いて行った。
未夏は、一度もこちらを振り返らなかったけれど。

俺たちは大きな喧騒が近づいてくると、だんだんと歩幅を大きくする。
未夏は子供が神社の境内前にある長い石階段を一歩ずつ、それでも確実に走る子供のようだった。
俺は彼女に着いて行くだけで十分息があがったが、彼女とここで別れる訳にも行かないのでこっちはこっちで懸命だった。
少しだけ長い坂を駆け上がると、そこには小さい空港が聳え立っていた。
俺たちはしばらくそのこじんまりした建物を見つめると、すぐに中へと入った。
中には多いとは言えないけれど、街の商店街よりは多い人の数がごった返していた。
「それじゃあ搭乗チケットを買うからしばらくここで待ってて」
そうとだけ告げて彼女は受付の方へと走っていった。
今から最速で来る便なら、あと20分もすれば乗れそうだ。
俺はしばらく受付とチケットの売買をしている未夏を眺める。
未夏の背中は先程とは対照的に、大きく、凛としていて、胸を張って生きている感じがした。
アイツは無表情だけど、嘘をつくのが下手な気がする。
「お待たせ」
俺がしばらく目を離して下を向いているうちにチケットを携えて帰ってきた。
「おう」
「もうすぐ乗れるわ行きましょ」
彼女は俺の返事も聞かないうちに搭乗口の方へと向かった。
俺の前の未夏は、生き生きしていた。

「まもなく離陸いたします」
搭乗員の無機質なアナウンスを耳に残しながら、俺たちは空へと飛んだ。
俺も未夏も飛行機に乗るのは初めてじゃないからこの浮遊感に特に驚きは感じない。
俺たちの席の横列の一番左に乗っているちっちゃい子供は、この浮遊に怯えている。
それを母親がなだめるが、母親自身も初めてなのか、いつ落ちるのではないかと心配しているような青白い顔色をしていた。
俺は、この浮遊感を感じるのは久しぶりだった。

俺の父親はパイロットだった。
パイロットというのは確かに憧れる様な凄い職業だが、それなりの努力のキャリアが必要とされ就職には狭き門で、父はそんな狭い門を通った僅かだった。
ずっと父の背中を見て育った俺も、当然パイロットとして働きたいと思った。
いや....それが、きっと俺の嘘。
憧れているんだと自分で思い込んでいたんだ。
俺には明確に夢がある、そのことを何処か安心のよりどころとしている幼い自分がいた。
父は何も俺の夢については語らなかった。
きっと父も分かっていたんだと思う、俺が「自分の翼」を持っていないこと、それはまだ父に背中を押してもらっているだけだってこと。
でも父の背中はおっきくて、おっきくて、でもあったかくて、そんな父だったはずなのに。
中学に入って、詰襟がまだぶかぶかなあの頃、俺は父が主パイロットである便に乗った。
4月23日18:00の空。
その便は・・・燃料漏れによって制御不能、緊急着陸の仕様もなかった。
死者50名を出す大事故で、俺と、父とその他数名は軽傷程度で助かることが出来た。
でも、照れ臭くってあんまり構ってあげられなかった妹、今まで父が不在の中一生懸命面倒を見てくれた母は、死んだ。
本当に呆気なく死んでしまった。
イなくなってしまった。
海に放り投げられた大きな機体は大海原へと沈んで、死体すら見つからなかった。
だから、葬式もろくに挙げてやれなかった。
死に際に傍にいてあげられなかった。
俺ただ線香を上げて、二人が死んだことを悔やんだ。
妹と母を守れなかったことを悔やんだ。
そしてなによりも、二人を含む50名を殺した父親を、憎んだ。
父親のせいなんかでは決してないのに、俺は子供ながら、父親に嘆いた。
―返してよぉぉぉぅぁあ!!返せええええええええええええええぇぇぇぇ!!
父はノイローゼに陥り、塞ぎ込んでしまったのはその日から。
今でも俺は父親を憎んでいるわけじゃない、あれが不慮の事故だって知ってる。
でも、父には俺の幼い罵声が耐えられなかった。
毎日のように泣かれる息子を、親として見てられなかったのだ。
今でも父は家で、最低限の生活をしているだけで、家事のすべては俺が任されている。
死んでしまって、もう二度と、俺の飯を作ってくれない母に。
俺は夢を持つこともなく、何気なしに暮らしている、でもそれで満足だ。

一方、未夏はというと、もう既に目を瞑っていて、この空を飛んでいる実感を持ちながら「空を飛ぶための方法」を考える。
空ならもう今の時点で飛んでいるはずなのに、その状況でさらに高く飛ぼうとしてるんだから、パイロットに遠まわしに文句を言っているようだ。
この高さに満足できない、乗客が二名。
俺はそんなにも真剣な彼女が、どうしてここまで空に執着があるのか分からなかった。
空に行きたいなら、俺の父のようにパイロットになったり、飛行機の客室乗務員にでもなればいい。
でも彼女が目指す空は、それとはどうやら違う。
俺も未夏に倣って、そっと目を閉じてみる。
飛行機はゆらゆらと僅かながら軌道を揺らしながら、ぎこちなく飛んでいる。
生みの親が「偶然」なんだから、動きがぎこちないのはある意味当然。
そんな僅かな動きすら、俺たちは目を瞑ることで感じる。
これが今、「空を飛んでいる」ってこと。
重力に逆らって、俺たちは大地から足を離して、空中へと体を浮かせる。
けれど、これは所詮科学様の力を借りて実現することであって、自分自身で飛ぶとなると、夢御伽噺の域を出ない。
これから何億年とかけて人類が翼を持つように進化できたなら別であるが。
今の生活に「空」を必要としない以上、これから先、どれだけ待ち望んでも翼が生えてくることはないだろう。
それにそれだと、絶対に俺たちが生きている間には完成しない。
だったらやっぱり科学の力が必要か?・・・答えは否だ。
未夏は少なくともそれを望んでいない。
だから俺たちはこれから、科学という枷を捨てる。
そして、自分だけの力で飛んでみせる、絶対に。

俺たちは長い旅路の末に、目的・・・地に、着いた。
「着いたあぁー!」
「それじゃあ帰るわよ」
「え.....」
着いて早々、帰宅を宣告された。
「だって別にここに来ることが目的じゃなく飛行機に乗ることに意義があったんじゃない」
「そりゃそうだけどさ....」
「帰りのチケットも買ってあるわさっさと帰りましょ?」
すぐに俺たちは飛行機を降りて、しばらく搭乗準備が整うのを待つ。
大きな窓から飛行機とそのバックに映る空を眺める。
俺の憎しみと恐怖の象徴だった飛行機、それが俺たちの夢の象徴である大空と一緒に視界に入ってきて、複雑に絡み合う。
でも、未夏と出会って、その憎しみと恐怖が少しだけ和らいだ気がした。
「行くわよ」
無愛想な声を聞くと、既に未夏は搭乗口へと歩き出していた。
「おう」
俺も黙ってその後ろをついた。
そんな彼女の無愛想な仕草すべてが、誰かと重なった、気がした。

帰りの飛行機では、あんまり空を飛ぶ方法については考えなかった。
ただ、あの時の事故のことについて、考えていた。
今思えば、あれ以来飛行機に乗るのは初めてなわけで、いきなり記憶が鮮明にフラッシュバックを起こしてしまった。 
今でも思い出せる、最期に見た妹と母の顔・・・ちょっとだけ歪む、そして消える。
水に石を投擲する、そして波紋はすぐに消えてなくなる様に。
思い出されるのは、笑顔ばかりで、泣いてる顔なんか、何一つなかった。
ただ一つ、心に残っているのは・・・・・妹と母の死に際に見た驚きと恐怖に満ちた、あの顔。

最初の嬉々とした坂を下りたのは、もう日が傾いて、外は夕暮れ時だった。
青かった空と茜差す空の境界がくっきりと現れた不思議で綺麗な夕暮れ。
その境界こそが、俺たちの目指す一つの空、なのかもしれない。

「どうだった?空の旅は?」
「あぁ...なんか久しぶりに乗ったけど、良かった」

でも、心の奥に必死に隠しているのは、

「そう」
「なんとなく、そんな気がするだけ」

楽しかった家族の思い出と、誇り高かった父の背中と、

それと・・・・・・・・・・・・。

「そう」
「でもなぁ....思い出すんだよなぁ...................アイツらをさぁ....」

(お兄ちゃーん!)
(れん)
俺に生きることを望んだ妹と、家を託して消えた母だった。

「そう」
「うゎぁあぁぁぁ.......うっうぅぅ.........」

俺は呻いた。
目の前の少女に泣いていることを隠そうとした。
でも一瞬、彼女の凛とした力強いあの後姿を思い出して、もう止まらなかった。
彼女は泣いている俺を哀れむことも、同情することも、軽蔑することだってなかった。
ただ、俺の涙を流す姿を、いつもの無表情で見つめているだけだった。
俺が泣き止む、その時まで、ずっと。

「どうする?これから」
涙を拭って、しゃくりが止まり、そう言い出したのは俺だった。
もしかしたら、未夏よりも先に話したのはこれが初めてかもしれない。
「もう少し考えてみましょ、とりあえず屋上にでも」
彼女はさっきの出来事がなかったかのように振舞ってくれる。
それは彼女なりの優しさなのか、それとも単に彼女の性格上なのか、俺には分からないが、いずれにしても俺にとっては嬉しかった。
俺たちは学校の中へと入って、屋上を目指す。
空港へと向かう時とは違って、もう学校には誰一人残っていなかった。
空港の変わりない喧騒を思い出して、少しだけ寂しくなった。

ガチャン
ドアを開けると、最初の頃の真っ青な空が、真っ赤に変わっていた。
空というと、俺は青空を連想するが、こんな紅蓮に染まった夕暮れも、別の形の空だと思う。
でも、夕暮れに飛ぶ俺たちを想像すると、なんだか寂しげ、というより、滑稽な気がする。
空の茜色は本当に鮮やかで、俺は網膜に焼き付けておきたくなるような衝動に駆られた。
俺たちの夢を象徴するその空を、実現させる一つの方法だなって思った。
でも未夏に言うのは何だか躊躇われた。
それは未夏が望むような方法じゃないって知っているから。
彼女が望む、「空」じゃないから。

その合間に、俺はふと思った。
未夏の今の生き方は、本当に一生懸命だと思った。

今の俺のふざけた生き方で、果たして死んでいった妹と母は喜んでいるのだろうか。
夢も希望も持たず、変化を望まないこの俺を。

塞ぎ込んで二人を殺したのは俺だと言うノイローゼの父を見て。
二人とも、俺が生きていくことを望んだ。

果たして今やっているコレが、正しいことだろうか。
俺は急に、自分の今の生き方に自信がなくなってきた。
俺は、これからもずっと、今は亡き妹と母に、胸を張って生きていけるのだろうか。
「俺は、分からない・・・・・・」
「・・・・・・」
俺の呟きにも、当然未夏は何も答えない。
それでも俺は、話し続ける。
「俺ってさ、最初親父に憧れてパイロットになろうと思ってたんだけど、アイツ事故ちゃってさ・・・」
「そう」
「それで、妹とお袋が死んじゃって...俺、そんとき、ちっちゃかったから、親父のせいだって当たっちゃって」
「そう」
「そのせいで親父がノイローゼになっちゃって、俺も惰性みたいに生き出して」
「そう」
「今もこんなことしてていいかなって・・・ふと思ったんだ」
「そう」
「お前は、どう思うよ・・・?」
「そんなの知らないわ」
俺の過去の告白は一蹴されてしまった。
「あなたの過去は知らないし知ろうとも思わない、唯、空を飛ぶ方法さえ見つけてくれればそれで構わないわ」
「・・・そうだよな」
何故だろう、そんな乾いた返事だったはずなのに、そんな冷たい返事が妙に嬉しい。
冷たくされることが嬉しいわけではなく、俺の過去を無視して、今だけを見てくれる、そんな彼女の性格に救われた。
だから、俺はこれからの指針を、彼女の精一杯の優しさから見つけ出す。
不器用に見せかけた、不器用な優しさによって。
「あなたはどうしたいの?これから」
驚いたことに、彼女から返事が返ってきた。
俺の決めた指針は、もう胸の中に、ある。
「俺は、胸を張って、生きていきたい」
「そう」
自然と声が出ていた。
俺はもう、歩き出せる、そんな気がした。
誰の支えも必要とせず、自分の夢・・・パイロットになるんだって夢を、再び一心に、目指していける。

「おめでとう」

「えっ...?」
刹那、未夏の声色が変わった。
以前の無機質な硬い声ではなく、俺を心から祝福してくれているのが分かるような、優しく柔らかい声。
俺は、彼女が今までに見せたこともない穏やかな笑みに見とれていた。
「やっと恋太朗、空を飛ぶための方法を見つけた」
「えっ・・・・・・・・・・・どういうこと、だよ?」
「もう君は、これから君自身の翼を持って、何処までも飛んでいける・・・そんな無限の可能性を秘めた一人の少年になれた、だから私の役目はこれお終い」
「役目って、何....?」
「・・・どうして、科学の力を使わずに、空を飛ぶ方法を探してたのかって理由...さっき聞いたよね」
「あ、あぁ...」
「それはね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・天国に来ちゃったお兄ちゃんに、さよならとありがとうを、教えるため」
「お前は、......ぁ」
「だめっ!言っちゃ駄目.....それ以上」
俺の頬から一筋の涙が零れる。
俺は、出会った最初の校門を思い出す。

―ねぇあなた、空を飛んでみたくはない?
―そうね、ごめんなさい訂正するわ気持ちよさそうに決まってるじゃない
―お兄ちゃんに似てるからよ

「最初から羽は持ってたはずなんだよ、お兄ちゃんは小さな羽根を。でも、ある日を境にそれは黒ずんじゃった...」
俺は赤い炎で焼けた空を思い出す。
零した涙は頬を伝って屋上のコンクリートを濡らす。
「うん・・・・・・」
喉の奥が、声をそんなに出しているわけでもないのに、つらい。
熱くて、焼けそうで、何か言葉が出そうなのに、また戻る。
「天国まで来れるくらい、すっごい翼を見つけたんだよ、恋太朗は」
「そう、なんだぁ........」
俺の視界がだんだんと滲んでいく。
「・・・もう、大丈夫なんだよね?」
「うん...ぅん....ありがとぉ........」
もう、前にいる未夏の顔もぼやけて見えなくなってしまった。
「良かったぁ......」
どちらがどちらと言う訳でもなく、二人は身を抱きしめあった。
今まで傍にいたのに、離れていた共に感じる温もり。
それは何処か懐かしいようで、何処か寂しい。
「じゃあさ....最後に一つだけ、お願いいいかな......?」
「何...?」
「私、そろそろ行くからさ・・・・・・・・・後ろ、見ててくれないかな.....」
「・・・・・・分かった」
俺は未夏の余韻を感じながら、そっと後ろを向いて、目を瞑った。
今さっきまで確かに感じていた、飛行機の揺れたときの浮遊感を感じた。
これは、「一度」だからエクスタシーだって、俺は言ったけれど・・・・・・
何度だって、感じるものなんだ。

「頑張れっ!お兄ちゃぁん・・・!」

未夏は俺の背中をドンッと押して、後ろに走っていった。
「未夏!?」
俺はとっさに振り向いてみると、屋上のフェンスを越えて、夕焼け空に向かって飛んでいる未夏を確かに見た。
彼女は最後まで凛としていて、その姿は、確かに空を飛んでいた。
翼はついてなかったけれども、俺は彼女の背中に小さく息吹いた羽を見た。
最期に見た彼女の顔は・・・・・・笑顔だった。
口元だけが、「さよなら」って、言ってた、気がした。


「......」
気がつくと、俺は風呂場にいた。
腕には剃刀による大きく裂け目が入っており、今も脈々と血が噴き出している。
「俺は、死のうとしていたのか...」
今頃になって記憶が鮮明に蘇る。
でも、夢と現実の間にいた俺と未夏のささやかなありがとうは、俺の胸に深く刻まれている。
俺はその傷を軽くシャワーで洗い流すと、風呂場を出て大きな絆創膏を貼り付けておいた。
傷はそこまで深いものじゃなかったから、二、三日で傷は癒えるだろう。
俺は臆病だったから、死ぬにも死ねなかったんだな...臆病な俺が、俺を救った。
未夏からたくさんのありがとうをもらったから。

俺は、ずっと塞がったままだった部屋を開けた。
中には、かつて俺の憧れだった人がいる。
「ここに置いとくから、良かったら食えよ」
俺はさっき握ったおにぎりを、実の父親に差し出した。
「・・・・・・・・・・・・ありがとう」と、泣きながら、食べてくれた。
これから俺は、アイツが俺にしてくれたことを、かつて憎しみの対象だったコイツに、教えてあげなきゃいけない。
でも大丈夫、なんたって俺のお父さんなんだから。
お前を生んでくれた、お父さんなんだから。
お袋が60億分の1の確率で探し当てた、お父さんなんだから。

俺には、未夏がくれた翼がある。
だから、もうこの世界でも迷わずに、指針を持って生きていける。
4月23日18:00の空から止まっていた俺の物語は、再び動く。
たくさんのありがとうの翼を携えて、これからも。


彼が目指したのは、あの日捨てたはずの大空。
彼女が差し出したのは、ちょっとしたきっかけ。

飛べるなんて思ってなかった、黒ずんだ俺の羽。
絶対飛べるって信じてた、お空の上の私。

二人から始まった、空を飛ぶためのメルヘン。

飛びたい、今すぐに、と言ってくれた。
飛べるよ、何処までも、と言ってくれた。

そんなおっきくなったアイツを、何処までも飛ばしてやりたかった。
ちょっとだけ成長したアイツを、何処までも飛ばしてやりたかった。

俺はたった一人、もらった翼を抱き締めた。
私はたった一人、彼が羽ばたく姿を見守った。


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【2011/01/27 18:56】 | 小説
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